IRYOΣ
イリオス — カオス、ケア、そして生命の未来

新着情報
■IRYOΣ(イリオス)とは
本サイト名「IRYOΣ(イリオス)」は、「医療(IRYOU)」とギリシャ文字「Σ(シグマ」を組み合わせた造語です。Σは、総和や全体性、あるいは未確定な関係性の束を象徴する記号です。この名称には、医療とケアの営みを、単なる部品の集積ではなく、動的で複雑な全体として捉えなおす意志が込められています。
IRYOΣは、カオス理論と複雑系の知を道標に、個別性と不確実性に満ちた「いのち」の現場に向き合い、医療とケアの本質に迫る、学際的探究と実践の共有をめざす場です。


■IRYOΣの目的と構想
私たちの行動には、つねに前提と意図が宿ります。
新たな概念の創出は、現象の見え方そのものを変え、理解の地平を拡張していきます。
こうした創造の契機は、他分野との交差や、具体的な出来事の中に眠っています。
IRYOΣは、既存の「医療」や「Medical」という枠組みを越え、生命とケアに対する新たな視座を提示するために構想されました。そこには、人間存在の複雑さに応答する、独自の思想と方法論が息づいています。
現在の医療・看護・福祉は、Evidence-Based Medicine(EBM)を基軸とし、測定可能なデータを重視しています。
しかし、生命のあり方は、単純な因果に還元できず、時間とともに非線形に変化し続けます。
カオス的な視点に立てば、これまで見えなかった構造やダイナミクスが浮かび上がります。
人間の健康もまた、秩序ある「ゆらぎ」を内包し、その非線形的な性質は、様々な領域で確認されています。
IRYOΣは、このような「Homeodynamics(動的な健康観)」に立脚し、医療・看護・福祉の新しいあり方を創出する知の実験場でありたいと願っています。
2025年12月
               【発起人】 日月裕 星雅丈 岩永浩明 田原孝

【顧問】 津田一郎

(文責  田原孝)
■ What is IRYOΣ (Ilios) ?
The name of this site, IRYOΣ (Ilios), is a coined term combining "IRYOU" (the Japanese word for medical care) with the Greek letter Σ (Sigma).
Sigma (Σ) symbolizes summation, totality, and bundles of yet-undefined relationships.
This name embodies our intent to reframe the practices of medicine and care not as a mere collection of parts, but as a dynamic and complex whole.
IRYOΣ is a space for interdisciplinary exploration and shared practice, guided by chaos theory and complexity science, to engage with the lived realities of life—marked by individuality and uncertainty—and to approach the essential nature of medicine and care.

Purpose and Vision of IRYOΣ
All human actions carry implicit premises and intentions.
The birth of new concepts transforms how we perceive phenomena, expanding the horizons of understanding.
Such creative moments often lie dormant in encounters with other disciplines and in concrete, lived events.
IRYOΣ was conceived to go beyond existing frameworks of “medical care” or “medicine,”
offering a new perspective on life and care.
At its core breathes a unique philosophy and methodology—one that responds to the complexity of human existence.
Contemporary medicine, nursing, and social welfare are largely centered on Evidence-Based Medicine (EBM), placing emphasis on measurable data.
However, life cannot be reduced to simple causality; it undergoes continuous, nonlinear transformations over time.
From a chaotic perspective, hidden structures and dynamics begin to emerge.
Human health, too, contains orderly fluctuations (“yuragi”), whose nonlinear properties have been observed across many domains.
IRYOΣ stands on the foundation of homeodynamics—a dynamic understanding of health— and aspires to become an experimental space of knowledge for imagining new possibilities in medicine, nursing, and care.
December 2025
Initiators: Yutaka Tacihmori, Masatake Hoshi, Hiroaki Iwanaga, and Takashi Tahara

Advisor: Ichiro Tsuda

Written by Takashi Tahara
当ホームページの概要

 このホームページは医療と複雑系との関係を論じることを目的としたものである。
 医学・医療は複雑系である。複雑系と言っても、医療に関係する複雑系には色々なレベルが存在する。医療自体が多くのレベルが存在する。分子レベル、細胞レベル、組織レベルの医療。されにその上には体全体のレベル、さらに集団や社会としてのレベルが存在する。これら、医学・医療のレベルに合わせてそれぞれの複雑系が存在する。
 生理学、細胞のレベルでは微分方程式などの力学系的な表現が可能である。そのため、そこに現れる複雑系にはカオス力学系としての性質や表現が見られる。心拍の揺らぎ、指先の血流変動を表す指尖脈波(指尖容積脈波)の波形の揺らぎの中に見られるカオスなどがその代表である。そのほかにも、目の瞳孔径の揺らぎ、心音波形などにもカオス変動が見られる。
 集団や社会医学が問題となる局面ではベキ分布を中心とした統計的な性質と統計的は表現による複雑系が存在する。病名頻度や入院日数においては裾野の長い分布が見られる。これらは、集団や社会医学における複雑系の表現である。
 従来、医学概論など「医学とは何か」を問題とする分野では、医療の不確実性というものが問題となっていた。治療、診断が確実ではなく医療過誤が起こるのも、医療の不確実性がその背景に有るためであると考えられている。医療が不確実である原因については、医師のミス、医療システムの不具合なども考えられるが医療そのものに潜む不確実性もあると考える。
 元々、医療が確実であるという信念は科学の確実性に由来する。しかし、科学(主に物理)の確実性の背景にはニュートン力学における機械論的決定論的世界観がある。これは、全体を単純なものに分解して考える要素還元主義とニュートン力学における決定論的世界観が結び付いた考えである。ニュートン力学における決定論的世界観とは、「全ての運動体は、その運動体のある時刻における位置と速度を決めれば将来が一義的に決まる」という考えである。ただし、最初の位置と速度に関しては、量子論における不確定性原理にまで戻らなくても、測定精度の点からも、それらを正確に決めることは本当は出来ない。しかし、位置と速度が近ければ、その後の経路も近いに違いないという信念が背景にあったのである。
 しかし、この決定論的世界観はカオス理論によって覆された。最初の時刻における位置と速度に小さな違いがあれば、時間と共にその違いが指数関数的に大きくなっていく場合があるという発見がカオス理論である。この理論によって、決定論的世界観については原理的に間違っているということになった。しかし、軌道の予測は出来なくなったが、一方でその軌道には全体として規則性があるということも同時に発見されている。それが、複雑なアトラクターの概念である。従来、力学系の安対軌道は一点と周期軌道だけであった。それに対してカオス理論において周期軌道よりはるかに複雑であるが安定な軌道(アトラクター)が存在することが示された。このアトラクターの性質は固定点や周期軌道と異なり統計的な性質で表す必要がある。
 カオス理論は少ない数の粒子(正確には自由度)の運動における複雑な軌道の話である。この小さな自由度を大きな自由度(多数の粒子)に拡張した概念が複雑系であるともいえる。大きな自由度においても、力学系が安定な規則性を生み出す。もっと、一般に多数の要素が互いに相互作用するシステムにおいて、互いの相互作用によってある種のランダムでない性質(規則性、規律)が生まれてくる。このような相互作用によって全体としての性質が生み出されるような系を複雑系と呼んでいる。
 このホームページは医療・医学おける複雑系的な性質について論じることを目的としている。しかし、医療の複雑系を論じるためにはそれ以外に、医療そのもの、複雑系を調べるための方法(情報システム)、医療内部の各種の因子(医学、看護学、経営学)についても同時に論じる必要がある。これら全てを含んだ内容になることを期待している。

(2024.04.29 日月裕)


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